fragile hapiness

のぞみとこんな風に二人っきりになるのは久しぶりだ。
幼くまとめた髪を揺らせながら、一歩僕の前を行くその背中を、こんな風に見るのは、本当にいつぶりだろう。


「シロップ、ケーキ食べてくれるかな?」


おもむろに振り返って目が合う。この大きな紫色の瞳も、にっこり笑う顔も、この世界にまた来てからはなんだかんだで他の人がいたせいか、今日ほどじっくりと見られた日はなかった。
考えていることを悟られないように無理やり笑顔を作って、

「うん、きっとね」

それだけ言った。  

のぞみはその答えに満足したのだろうか、またくるっと前を向いて歩き出した。
僕はまたその背中を追って歩く。未だ低い背、細い肩、小さな頭。
離れていたのはそんなに長い時間でもないのに、すべてが、僕が最後にのぞみを見たときから違って見えた。
僕の記憶が間違っているのだろうか?

「おいしかったな~、セレブ堂のケーキ!また食べたいなー」

今度は前を向いたまま、独り言とも取れるような口調で言った。
・・・言うことは変わってないな。
そのことが僕には嬉しかった。記憶の中ののぞみも、きっとそういうことを考えるだろう。

「とか言って、1週間に一回は食べてるだろ?」

嬉しさのあまりついいじわるが口を付いて出たが、それでものぞみは肩を揺らしてそうだね、と笑っただけだった。

そんな会話が続いた。あまりにも平凡で日常的で、でもそれが、どんなに僕が望んでいたことだったかは、自分でよくわかっていた。
だが、そんな当たり前の会話の中にも、細かい変化があることに気づいたときは正直胸にちくりと来た。
返答も少しずつかわってきている。予想していた答えと微妙に違う反応が返ってくる。
まだまだ子供だけど、その一瞬一瞬の中に、小さな大人びた表情が見え隠れする。14歳という成長の時期を考えればそれはいかにも当然のことなのだと頭では分かっても、心の中の痛みまでは無視できなかった。

たまに見せる上目遣いも、どこかを見つめる横顔も、同じように見えて、どこかが違うのだろう。


僕はのぞみの隣を歩けないでいる。